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松本清張の「球形の荒野」を現代にテレビドラマ化するには無理があったようだ
This is my site Written by iwasaki on 2010/12/17 – 18:31

第二次大戦の敗色が濃厚になってきた時期に、これ以上の日本の荒廃を避けようと中立国スウェーデン公使館で和平工作に身を挺した外交官が、終戦後10数年たって望郷の念と娘に会いたさに、既に死亡と公報された身でありながら、密かに帰国した。
お寺の芳名帳に記された特徴のある書体からその死亡を疑い始めた娘の恋人の新聞記者の調査活動に、公使館関係者の殺人事件、松本清張らしい重厚に組み立てられた原作は、これまで松竹での映画化と1962年を皮きりに6回のテレビドラマ化が行われてきた。
そして、つい先日、7回目が2夜連続で放映されたので、ビデオに撮って楽しみに観てみたが、何だかおかしい。妻も「現代では時代背景を理解しにくいからテレビドラマ化には無理があったと思う」と感想を述べてくれたが、それだけでは納得がいかずに原作を拾い読みしてみた。
結果は原作を現代受けするように脚色し過ぎだということが分かった。終戦からの復興をより際立たせるためにオリンピック開催年まで時期をずらし、娘の恋人を警察官にして、殺人事件を追いかけるミステリー仕立てになっている。とどのつまりは元外交官に対して、「今の日本は貴方が望んだ姿か」と命を賭した行動の価値を問うとは何ともやりきれない。
時代背景が理解されにくい原作を映像化する際には相当難しさはあると思うが、作者の意図を変えてしまっては意味がない。鳴り物入りでの放映にがっかりしてしまったのは私だけではないだろう。

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