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山崎豊子「運命の人」を読んで。運命とは?
This is my site Written by iwasaki on 2011/05/31 – 08:25

単行本が出て2年後に、広く読んでほしいとの著者の強い要望から、文庫本化された山崎豊子氏の大作「運命の人」4冊をようやく読み切った。
1972年におこった外務省秘密漏えい事件を題材にして、沖縄返還交渉の内幕と終戦直前に唯一地上戦が行われた沖縄の悲劇と、戦後アメリカ軍基地の70%以上を背負っている沖縄市民の悲惨な現実を、膨大な文書と、これまた膨大な現地聞き取り調査をベースにして書かれたこの小説は、単なる小説の域を超えて、沖縄問題を本土に住む日本人に突き付けた課題提起の本である。
外務省の秘密文書を持ちだした事務官、またそれを強要したとされた新聞記者が国家公務員法で起訴され、1審が無罪だったにもかかわらず、身辺を乱していたために男女問題に本質をすり替えられ、最高裁で有罪が決定したこの事件は、報道の自由と国民の知る権利とは何かが問われたにもかかわらず、それに正面から向き合わなかった無念さが残る裁判だった。
新聞記者を辞め、死地を求めて沖縄をさまよった元記者が、30年も経って、秘密文書の存在が明らかにされた後、沖縄の現実を問題提起する生き方を見つけて、「自らの意思で選んだ道程ではなかったが、そのように運命づけられているのなら、使命を果たそう」とのくだりでは、「運命とは何か、定まったものなのか」を読者に正面から問うている。
是非、読んでいただきたい本である。

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